日本文化政策学会では、2025年 1 月 1 日より第 4 回の学会奨励賞のための応募受付を開始し、受理した論文および著書について審査を行いました。以下に、その結果をお知らせいたします。
○審査結果
以下の2作が奨励賞に選定されました。
[論文の部]
1. 韓 河羅「アートプロジェクトにおける自治体とアートNPOの協働に関する研究」
2. 岡田 潤「都市生活における余暇の時空間に関する研究」
[著書の部]
該当作なし
○審査過程の概要
今回は、「論⽂の部」として 3 作を審査いたしました。5 名の審査委員は、各候補作について、学会奨励賞審査委員会規則を踏まえた 8 項⽬につき、5 段階の評価を⾏うとともに、300 字程度の講評を提出しました。その結果は審査委員⻑が取りまとめを⾏い、それを審査委員全員で確認し、協議のうえで受賞作を決定しました。なお、8 つの審査項⽬は下記の通りです。
A. ⽇本⽂化政策学会の⽬的にあった研究であるかどうか。
a. 広い意味での⽂化に関わる社会事象を焦点に当てている。
b. 実際の政策、政策のプロセス、政策上の判断を導く規範など、政策に視点を置いている。
B. 今後、研究者として発展可能性があるかどうか。
a. 研究⽬的に相応しい研究⽅法を採り、的確に遂⾏している。
b. 学術的著作として⼗分な体裁を整えており、論理の展開も明確である。
C. 研究内容に独創性または新規性があるかどうか。
a. 先⾏研究にない新しい理論や概念、モデルの構築、もしくは新しい観点や⽅法論の提⽰に成功している。
b. 学術的意義の⾼い、新規の事実・資料の発⾒や、研究領域の開拓を⾏っている。
D. 研究成果が⽂化政策の発展に寄与するかどうか。
a. 先⾏研究を充分に踏まえたものであり、⽂化政策研究の潮流の中に位置づけられている。
b. 豊富な根拠資料に基づいており、資料としての観点から⾒て利⽤価値が⾼い。
○受賞作についての詳細
[受賞作]
1. 韓 河羅「アートプロジェクトにおける自治体とアートNPOの協働に関する研究」
[講評]
本論文は、足立区の《アートアクセスあだち 音まち千住の縁》を事例に、自治体とアートNPOの協働を分析した実践研究である。著者自身の現場への参与経験をもとに、運営の実態に内在する複雑な力学や、協働がもたらす実務上の課題を掘り下げており、理論と実践の架橋を志向する姿勢が明確に示されている。従来の研究がNPO視点に偏っていた点に対し、本研究は自治体職員の働きにも着目し、協働の相互性と多層的な関係性を丁寧に描き出している点に独自性が認められる。特に、成果の捉え方に関する両者の相違がいかなるプロセスで生じるかを明らかにした点は、大きな研究成果と言えるだろう。
一方で、他のアートプロジェクトと《音まち》の関係性(共通点や相違点など)が十分に検討されていない点、アートNPO側の組織運営に関する相対的視点が不足している点、さらに、一部の章(特に第3章の事例記述)では詳細な現場描写が多くなり論点が曖昧になっている点などに、研究論文としての課題も見られた。
とはいえ、総じて「現場研究」としての一つのあり方を示す意欲作であり、さらなる実践と研究の展開が大いに期待される。
2. 岡田潤「都市生活における余暇の時空間に関する研究」
[講評]
本論文は、コロナ禍を契機としたテレワーク普及に伴うライフスタイルの変化を背景に、余暇空間の構造と都市政策との関係を多角的に分析した都市工学的な研究である。テーマごとに先行研究を丁寧に踏まえながら、定量的な根拠を示して緻密に議論を展開している点は特筆に値する。特に、東京都市圏における余暇の過ごし方と、「文化的な生活圏」の構築を促すべく、都市計画と文化政策の両分野を横断した方向性を提示しようとする点は独創的であり、高く評価できる。
一方で、章ごとの関連性が明確に示されておらず、全体として何を明らかにしようとしているかが曖昧な点が惜しまれる。また「都心」という分析対象の特徴(特異性・共通性など)が述べられていないため、今回得られた知見が、都心10km圏以外の地域や地方都市、郊外地域での都市政策・文化政策へとどうつながっていくかが見えないのも残念である。
とはいえ、総じて都市文化政策研究に基盤的かつ発展的な成果をもたらすものであり、今後の研究展開が大いに期待される。
審査委員長 中村美亜
審査副委員長 小島 立
審査委員 片山泰輔
野田邦弘
閔 鎭京
2025年12月に奈良県奈良市で開催される第19回年次研究大会において表彰式が行われます。
その際、学会奨励賞を受賞された御二方には記念講演を行っていただく予定です。